◎性犯罪刑法改正までの5年間の記録
映画「声をあげるということ」

©2026 Tokyo Video Center
刑法の性暴力規定が「同意のない性交は犯罪である」という認識に基づく内容に改正されたのは2023年。映画「声をあげるということ―性犯罪 刑法改正の記録―」は、2019年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決をきっかけに始まったフラワーデモでの語りを主軸に、当事者の歩みを記録したドキュメンタリーだ。
映画のなかでは、複数のサバイバーのフラワーデモでの語り、それぞれの5年間での変化を追っている。2023年に改正された刑法に、積み残された課題があることは確かだが、たった数年前まで同意のない性行為を犯罪として裁くことが難しい社会であったことを、この作品は改めて思い起こさせる。社会や私たち一人ひとりの認識が少しずつ変わっていくなか、常にそこには声をあげ語った当事者の存在がある。映画を観ながら、私は刑法改正の歴史としてだけではなく、自分自身のこの5年間も振り返っていた。
▼フラワーデモの場に行くこと

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性暴力サバイバーでもある私自身の立場から、この映画を見て「声をあげるということ」について改めて考えたことを記したい。
私が性暴力の被害に遭い、「現状を伝えたい」「話したい」と考えたとき、フラワーデモの場は既にあった。2020年2月に私は初めてフラワーデモに行った。そのときスピーチはしなかったが、その場にいて立っているだけで、自分の被害は「なかったこと」にならない気がした。知り合いはおらず、一人で参加した。誰とも話さなかったし、外から見たら私が当事者なのか支援者なのかも分からない。それでも、スピーチをしている人を見て「SNSで発信していた人だ」と思ったり、フラワーデモ主催の北原みのりさんの文章を学生時代に読んだことがあったので「あの方が北原さんか」と思ったりした。
休職中、社会とのつながりがほとんどないなかで私は、SNSで他の当事者の発信を見ていた。フラワーデモの場に行くと、知り合いはいなくても「知っている人がいる」と感じた。「一人ではない」とも。そして、自分が問題に感じていることを同じように問題だと感じ、「法を変える必要がある」と言っている人たちがいた。その姿を見て、自分も自分のやりたいことができる気がした。同じ時期、ルーズリーフに後に自分が立ち上げた「THYME(タイム)」webサイトの構想を書いた。

初めてフラワーデモに行ったときに持っていた花
私がフラワーデモで初めてスピーチをしたのは、2022年9月だった。そのときには第一審も終わり、自分の活動を知っている方や直接話をした方もいた。サバイバーの知り合いが2年で沢山できた。
フラワーデモに行くと、当事者としての時間が流れていることを感じる。この映画に収められている5年間が私にもあった。それぞれの当事者が、それぞれの形で積み重ねてきた5年間。
デモでスピーチする当事者は、初めての人もいれば、定期的に”近況報告”をしている方もいる。フラワーデモは、社会の歩みや自分自身の変化も、当事者たちとともに感じられる場所だと私個人は思っている。

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▼当事者の声をどう受け取るか
映画のなかで特に印象に残ったのは、フラワーデモ群馬を立ち上げた田嶋みづきさんのエピソード。しばらく経って、運営を他の方に引き継がれたときにこう語っていた。当初思いをもって活動を立ち上げたが「いつしか感動ポルノのように取り上げられていると思った」。
声をあげ始めることだけでなく、しばらく経ったとき、自分の気持ちを守るために関わり方を変えること。その姿もこの映画は丁寧に記録している。同時に、被害について声をあげることを称賛すること、素晴らしいものとしてまなざすことは、被害者の気持ちから遠いところにあるということも私たちに伝える。
映画のなかでは、「性暴力をなくしたいと願う人のなかでも暴力は起きうる」という現実も示されている。社会を変えるという目的のもとに、個人の被害や語りを「材料」としてしまうことへの戒めを、受け取る側は常に問わなければならない。自分自身もまた加害者になりうるということには、目を背けたくなるかもしれないが、性暴力をなくしていくことは、加害者を他者化しないことから始まるのだと思う。

▼語りが社会を変える
語りは、一人の人間の価値観だけでなく、社会までも変える力を持つ。何かが変わるとき、根底には当事者の語りの力があることを改めて感じさせられる。
しかし、多くの当事者は、最初から社会を変えるために語り始めたわけではない。自分のために自分の経験を語り、自分の痛みをなかったことにしないために声をあげた。その一つ一つの語りが積み重なり、結果として社会を動かしていった。その過程こそが、この映画には記録されている。
見る人それぞれが、この5年間を違う思いで振り返るだろう。希望を感じる人もいれば、その間の出来事に疲弊を感じる人もいる。当事者や関わってきた人ほど、その受け止め方は複雑かもしれない。
この作品は、「声をあげれば社会は変わる」という単純な希望だけを描いているわけではない。声をあげることで生まれる葛藤も、徒労感も、運動のなかで起きる暴力も映し出している。それでもなお、一人一人の語りが社会を少しずつ変えてきたことを、この5年間の記録は伝えている。
改正刑法の施行から3年が経ち、次の2年後の刑法改正が議論される今だからこそ、この映画は過去を振り返るためだけではなく、「これから」を考えるための作品として、多くの人に見られてほしい。(卜)
●映画情報
『声をあげるということ-性犯罪 刑法改正の記録-』
8月1日(土)より新宿 K’s cinemaにて公開するほか全国で順次公開
監督:濱地咲季
出演:山本潤、北原みのり、田嶋みづき、石田郁子、睡蓮みどり
製作:東京ビデオセンター
配給:パンドラ
2026年/日本/カラー/80分
公式サイト:www.voicesmakechange.com
公式X(旧Twitter):@ourvoices_docs
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