【シリーズ #声の軌跡-卜田素代香さん】
二次加害の過酷さ 「被害者は悪くない」を誰もが知っている社会へ
※以下の記事では、性暴力と二次加害の実態を伝えるため、具体的な二次加害の言葉についてもそのまま記載しています。心身に負担を感じる可能性のある方は無理をしないでください。
▼性暴力はジェンダー構造の問題
大沢真知子(以下「大沢」) NHKサイト「性暴力を考える」に掲載された記事「“性暴力”裁判 被害女性が語った15分のことば」に、卜田素代香さんの法廷での意見陳述が全文掲載され、大きな共感を呼びました。法廷でのことばに込めた思いについて、卜田さんは以前「性暴力はジェンダー不平等の構造のなかで起きているにもかかわらず、そのことが社会では語られていない。女性として生きてきて感じたことや生きづらさを、司法の場で伝えたかった」と語ってくれたことがありましたね。
卜田素代香(以下「卜田」) 当時は、とにかく「伝えたい」と思っていました。自分の見えている世界と、自分以外の人たちが見ているものがあまりにも違うという思いや、無関心層への怒りが強くありました。
大学時代から性被害の問題については見聞きしたり、自分自身もひやっとしたりした経験はあったんです。でも、性暴力の問題に特別詳しいわけではなかった。大学時代は女性のライフコース選択の問題を卒論で書き、ジェンダー差別の構造については言いたいことがたくさんあって。でも意見陳述の場で自分の問題意識を伝えたいと思ったときに、性暴力が起きる構造はジェンダー差別をもたらす構造の問題と同じだということに気がつきました。
司法のなかでは、なぜ事件が起きたのか、何が問題だったのかということは話されない。法廷は、あくまで加害者個人を裁くためだけの場所。そのことに虚しさのようなものも感じました。性暴力がジェンダー構造の問題であるということは社会でも話されていないし、もちろん裁判でもそんな考え方は一切ありません。
だから意見陳述の文章を書いたときには、事件のことだけじゃなくて、この社会で女性として生きてきて感じたことや考えたことを、司法の場で伝えたいという思いがすごく強くありました。自分の考えや気持ちを言える唯一の機会だったので、加害者が自分の問題に向き合ってほしいこと、そしてそれは加害者個人の問題ではなくジェンダーに関する社会の価値観によってもたらされているということを伝えたくて、あの意見陳述になった。それが拡散したのは、記事を読んだ人も問いを突きつけられたような気持ちになったり、性暴力を社会構造のなかの問題として考えてくれたりしたからだと思います。
池田鮎美(以下「池田」) 卜田さんのことばを読んで、性暴力の背後にあるジェンダー構造に気がついた人は一定数いたんじゃないかと思います。

卜田素代香さん Ⓒプラネチカ
▼ネットを通じてある種の革命が起きた
大沢 2017年頃からその空気が変わってきた。インターネットの存在も大きかったのではないでしょうか。
池田 インターネットを通じて、ある種の革命が起きたんですよね。刑事裁判というのは、被害を受けたときに、その被害が被害として社会に認められる最も正当な手段ですが、2017年に刑法が改正されても被害届はなかなか受理されず、多くの被害者はそこにアクセスできなかったんです。そんななかで2019年にNHKの「性暴力を考える」が開設され、2022年に卜田さんがまっすぐに司法の場で声を発してくれました。NHKがそれを報じて、ネットで拡散されました。そのとき、読者の心のなかで自分の経験と司法の場がつながり、正義に対する渇望感が広がったのではないかと思います。
インターネットが身近ではなかった時代には、既存の仕組みの中でしか情報を得ることができなくて、性暴力被害者が新しい知識を身につけたり、自分に似た経験をした人を見つけたり、自分たちの意見を言ったりできる場所は限られていました。SNSが身近になってからも、誹謗中傷を気にして、多くの被害者は経験を語れないままでした。
ところが「性暴力を考える」の登場により、ネット上で安心して自分の体験を話せる場所、読める場所ができた。そこにコミュニティができたのを目撃して、性暴力被害者の周囲の人も変わり始めた。
大沢 確かに、ネットの果たす役割が大きくなるなかで、公共放送によって「性暴力を考える」のプラットフォームがつくられたということは画期的なことでしたね。
もう一つ思うことは、社会の変化をみると、男性が一人で世帯を支える時代から、夫婦ともに働いて家計を支える共働きの時代に大きく変化していることです。性暴力被害による経済的な影響は、世帯にも、企業にも、社会にも及びます。放置することで社会が失うものは大きくなっているのに、性暴力に対しての社会の意識転換は遅れていますね。そこに変化をもたらす力に私たちがなれるでしょうか。
池田 なれます。
大沢 なりましょう。ワクワクしてきました。
▼ショックで体の中がばくばくと―
大沢 次に日本のレイプ神話についてうかがいます。「被害に遭ったのは被害者の落ち度があったから」といった考え方によって、被害者はさらに深く傷つきます。卜田さんは、二次被害に遭いましたか。
卜田 加害者が逮捕されてニュースになったときに「鍵を閉めていなかった女がアホ」「女が池沼(知的障害を指す差別的な言い方)」「新宿のオートロックマンションに住んでいる20代女性とか、絶対まともな職業のやつじゃないだろ」といった単純にニュースを面白おかしく消費するようなコメントが書かれました。また、当時は面識のなかった加害者に「勤務先の会社を知っている」と言われ「誰かに言ったらすぐにわかるから」「見張っているから」など脅されたことがものすごく怖くて、ワンストップ支援センターに電話をした際に「会社を知られているといっても別に建物だけで、どこの会社か分かるような有名な会社に勤めてるわけではないでしょう。心配しすぎだと思いますよ」と言われたのもショックでした。
SNSでは、フォロワーが多い人が、私が被害について書いた投稿を引用して「フェミニストを犯すとMetooと喘ぐ」などとツイートし、それが嘲笑をもって拡散されるということがありました。ショックで体の中がばくばくと、まるでおなかに心臓ができたかのような奇妙な動きをしたことを覚えています。
池田 それは今聞いてもひどい二次加害だと思うし、卜田さんはとても大変な経験をされたと感じます。

池田鮎美さん(左)と卜田素代香さん Ⓒプラネチカ