【シリーズ#声の軌跡・設立記者会見】
「社会がまだ知らない現実は当事者の経験の中にある」トラウマ抱えながら生きていける社会目指して

私たちは2026年5月に任意団体「性暴力を考えつづける」を発足し、7月7日にサイトを立ち上げました。そして7月22日に東京都内でサイト設立の記者会見をして、サイト名を「プラネチカ 性暴力を考えつづける」と決めたことや、設立の経緯や趣旨をお伝えしました。私たちの出発点となる設立記者会見の詳報をお届けします。
プラネチカ編集部 2026.09.08
誰でも
左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん=2026年7月22日、東京都内

左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん=2026年7月22日、東京都内

 ▼変わり続ける個人の集まり

 熊田安伸)サイトの設立と運営を支援しているウェブメディア、スローニュースのプロデューサーの熊田です。最初に、サイトを運営する団体「性暴力を考えつづける」代表の池田鮎美さん、お願いします。

 池田鮎美)性暴力被害者で元ライターの池田です。私たちは7月7日にプラットフォームを公開しました。性暴力被害者を真ん中に置いたプラットフォームです。

 設立のきっかけは、2025年9月30日にNHKのサイト「性暴力を考える」が閉鎖されたこと、そしてその後、私たち性暴力被害者がつくる「サイト存続を求める会」が始めた署名活動に2万8千を超える賛同が集まったことです。

 「性暴力を考える」には五つの優れた点がありました。一つ目、性暴力やトラウマについての理解が進むきっかけをつくりました。二つ目、被害者のみならず家族や友人、弁護士が被害にどう対処したらいいかを学ぶことができました。三つ目、被害者や記事を読んだ人がつながり支え合う場となりました。 四つ目、取材班が実施したアンケートに3万8千を超える回答があり、2023年の刑法改正につながりました。五つ目、当事者の声が社会を動かした歴史の記録となりました。

 しかしサイトは閉鎖され、私たちは無力感でいっぱいになりました。なぜなら、社会問題としての性暴力が解決したわけではないからです。

池田鮎美さん

池田鮎美さん

 私は以前、メディアで働いていました。その中で性暴力被害に遭い、書くことができなくなりました。それは性暴力被害者として書くということを、メディアにいる人たちの多くが想定していなかったからだと思います。実際、私が性暴力被害に遭ったと明かすと、仕事の依頼が全くなくなりました。被害者が被害者のまま書き続けられる場所が必要なのに、それがないのだということが分かりました。

 今も、文章を書こうとして手が震えることがあります。 それは性暴力被害者として文章を書くことや意見を言うことが許されないと感じるからだと思います。

 一例として自分の経験を話しましたけれども、これはメディアだけではなく、社会全体の姿を表しています。性暴力被害者としてその後を生きる。学ぶ、働く、生活する、意見を言う。そういうことが、まだ想定されていないのだと思います。

 心の傷つきに配慮した「トラウマインフォームド」な社会が必要だと感じているとき、NHKの「性暴力を考える」が立ち上がり、救われたように感じました。被害者である自分を受け入れられる。意見を表明しても誹謗中傷に遭わずに済む。「性暴力を考える」はそんな場でした。それが失われて立ちすくみ、立場を超えて人とつながり、考え続ける必要があると思いました。そして、問題意識を共有する仲間が集まり、こうして新たなプラットフォームを始めることができました。

 運営にあたる編集部の考え方をお伝えします。 私たちは一人一人、完璧な人間ではありません。弱さや苦手なことのある、考え方の違う人間の集まりで、それぞれ変わり続けています。弱くて、考え方の違う、日々変わり続ける私たちが集まり、性暴力を考え続ける姿を取り繕わずに開示していきたい。

 性暴力について考えることは、被害者だけが担うべき仕事ではありません。現実には多くの被害者が自分の経験を語り、社会を変えるための負担まで引き受けています。私たちは対話することでその構造を変えていきたい。私たちはこの場を、小さくても声を発し、互いの声を聞き、集め、開き、共に考えるコミュニティとして育てていきたいと思います。

池田鮎美さん(左)と卜田素代香さん

池田鮎美さん(左)と卜田素代香さん

 ▼まだ名前のついていない苦しみ

 熊田)続いて卜田素代香さんお願いします。

 卜田素代香)編集・事務局担当の卜田です。 私は7年前に性暴力の被害に遭い、刑事裁判への被害者参加やPTSDの治療を経て被害回復をしてきました。NHKの「性暴力を考える」には、私が被害にあった事件の裁判が開かれるタイミングで取材を検討いただけないかとメッセージを送りました。 取材班の方たちが傍聴し、私が法廷で読み上げた被害者意見陳述を全文掲載してくれました。

 すると、多くの当事者がこんな声を寄せてくれました。「私も頑張ろうと思えた」「自分を責め続けていたけれど、救われた気持ちになった」「同じような思いをする人を減らしたい、そのために被害について話したい。何かできることをしたい」

 自分でも活動を立ち上げ、当事者と話をする機会を持ってきましたが、印象的なのは、口をそろえて「今は体調的に難しくても、いつか同じ経験をした人の力になりたい」と言ってくれることです。一人の当事者が回復の過程で獲得した知識や意味付けを語り、他者に手渡すことは、性暴力に対抗する言葉や知識をコミュニティの知として共有する行為です。語る側にとっても社会につながるきっかけとなります。 性暴力が人と人との関係を断ち切り、コミュニティを破壊するものであるならば、被害を経験した当事者が語り、他者に経験を手渡していくことは、人との関係性を再び編み直す営みであり、性暴力によって傷つけられたコミュニティの回復にも寄与する可能性があります。

卜田素代香さん

卜田素代香さん

 今回発足したプラットフォームは、そうした当事者の語りや知を、安全な環境で共有していく場にもなり得ると考えています。その上で、このプラットフォームだからこそできると考えているのは、当事者の思いや言葉を大切にし、そのまま伝えることです。

 社会がまだ知らない現実は、当事者の経験の中にあると思います。まだ名前のついていない苦しみを伝えようとすることで、それは言葉になり、概念になり、社会が認識することで変わっていきます。だからこそ、当事者の声を社会にとって都合のいい形に切り取るのではなく、その人自身の言葉として受け止め、届けていきたい。ニュースになる出来事だけではなく、その後の日常や一人一人の思いにも光を当てたい。被害のその先を生きている当事者の言葉をそのまま伝えることの力を信じ、努力していきたいと思います。

大沢真知子さん

大沢真知子さん

 ▼日本社会は性暴力を容認している

 熊田)このサイトにはアドバイザーが何人かいます。 そのうちの一人である日本女子大学名誉教授の大沢真知子さんから話していただきます。

 大沢真知子)私はNHKの「性暴力を考える」が実施した調査に関わりました。3万8千を超える回答が集まり、その詳細分析をしている途中でサイトが消えてしまいました。しかし私は、回答してくれた方々の思いを社会に伝える責任があると考えています。

 NHKの調査から分かった日本の状況についてお伝えします。被害者の中で被害届を出した人は1割にすぎません。このような状況で加害者の捜査が行われ、送検され、有罪になったケースは1~2%、実刑判決が出たのは1%を下回る。つまり加害者はほとんど放置されている状態です。性暴力の被害がいかに深刻かと言いながら、日本社会は性暴力を容認しています。平均被害年齢は15.1歳。4分の3が20歳未満で被害に遭っています。社会的・経済的インパクトについてですが、実際に仕事を失ったという人のみで計算しても、2兆5千億円に上る人的資本の損失が計測されました。

 また、被害者への支援体制もほとんど整っていません。例えば、性暴力被害に遭うとPTSDの症状が出る人は半数以上です。これはアンケートの結果から計測できますが、実際にそう診断された人は3%にすぎない。つまり専門家も育っていないということです。法制度が整っていないので予算も計上できないという状況が長い間続きました。つまり性暴力の分野に関しては、日本はほとんど手をつけずに今まできてしまった。こういう状況を直視する必要があります。

宮本聖二さん

宮本聖二さん

 ▼比較せず、支配せず、序列化せず

 熊田)次に編集長の宮本聖二さん、お願いします。

 宮本聖二)私たちは任意団体であり、営利を追求するものではなく、公共性や公益性を重視して運営をしていこうと思います。

 記事を届ける方法ですが、the Letterというプラットフォームを利用しています。特徴は、登録している方に記事をメールで届けると同時に、サイトの中に記事を蓄積していくことです。

 記事には登録者全員に届けるものと、サポーター会員のみに届けるものの2種類があります。スローニュースと連携をしていて、本格的なドキュメンタリー記事や調査報道などはスローニュースからも配信します。

 性暴力やハラスメントの事象や事件のほか、この問題に関する研究や知見、政策に関わるものなど、いろんな記事を考えています。被害当事者のインタビューは、被害後にどんな思いを抱えながら生きてきたのかなど、できれば長い時間軸で取り上げられたらなと思います。

 「ことばの海」と名付けたカテゴリーもあり、性暴力に関する本や映画の紹介を不定期で配信します。いろんなメディアの関連記事をピックアップして紹介する「今週の注目記事」もあります。これは毎週配信で、サイト内に積み上げていきます。

 イベントもやっていきます。 トークセッションや読書会など、リアルに交流できる場を展開したいと思っています。まだローンチしたばかりですので、いろんなことをやりながら育てていけたらなと思います。

 熊田)「性暴力を考えつづける」というのは団体の名称で、今回みなさんに親しんでもらえるサイト名を別途付けたいということで、これまでに登録していただいた方々にアンケートをして、サイト名を決めました。それを発表します。

 卜田)これまで登録していただいた方に、このサイトの名前の候補を三つ示して投票を行い、決定しました。 サイトの名前は「プラネチカ」です。

 池田)この名前に込めた意味を説明します。プラネチカという言葉は思想家ガヤトリ・スピヴァクの惑星的、プラネタリーという概念をもとにした造語です。互いに興味を抱き合い、惹かれ合いながらも、同じになることを求めない。比較せず、支配せず、序列化せず、それぞれの違いを尊重しながら、性暴力という共通のテーマについて考え続ける、そんな対話のあり方を表しています。

熊田安伸さん

熊田安伸さん

 ▼エンゲージドジャーナリズムの萌芽の一つ

 熊田)質問を受けたいと思います。

 質問)NHKのサイトの内容について、どの程度引き継ぐのか教えてください。

 熊田)著作権の問題があるので、一切引き継ぎません。NHKのサイトにあった精神とか思いみたいなものを引き継ぎたいという意味であって、全く別の組織ですので、引き継ぐことはできません。

 質問)大沢先生がやっていたというNHK調査の詳しい分析は読めないのですか。

 大沢)そう、それは悲しいことですね。ただ本を書いていますので、出版されれば引用きますし、前に出版したものもあります。学術論文としても今2、3本書いています。そこからの引用は認められているので、引用元をしっかり示しながら、引用していただければと思います。なるべく早く成果をみなさんにお伝えしたいなと思っています。

手前左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん

手前左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん

 質問)2023年の刑法改正の付則で、5年後の見直し検討というのが入っていますが、それに向けた政策提言も考えていますか。

 池田)政策提言につながるアンケートなど、改正に向けた議論の中で役立つようなことをしていきたいと思っています。

 熊田) 私たち自身が何かを発信するということもありますが、いろんなメディアもこの問題を発信しています。各メディアの発信を僕らが取り上げて、今こんな議論が起きていますよとか、このメディアからこんな鋭い視点が発信されていますよと伝えることもやっていきます。それが例えば「毎週の注目記事」です。

 質問)経費面ですが、有料のサポート会員制度を取られる一方で、営利団体ではないということで、ボランティアでやる形になるのでしょうか。

 池田)サイト継続のためには、事務費や記事制作費などの費用がかかります。そのためのサポートをみなさんにお願いしている状況です。

 宮本)現状はほとんどボランティアです。しかし長く続けるためには、記事制作やイベントの開催、調査にも費用がかかりますので、みなさんにサポート会員になることをお願いしています。助成金も得られればありがたいなと思っています。

 質問)公共性を最優先にしたいということをおっしゃっていました。プラネチカが目指す公共性のイメージを教えてください。

 池田)性暴力について考え続けて、社会を変えていくこと。性暴力被害者だけがそれに取り組むのではなく、被害者の家族や友人、知人、ジャーナリスト、研究者、いろんな立場の人が関わっていく、それが私たちの公共性のイメージです。

 熊田)この団体の一番の特徴は、性暴力について真摯に考えたいという人たちが集まり、自ら公共性の高いプラットフォームを立ち上げるということです。日本にこれまであまりなかった動きで、エンゲージドジャーナリズムの萌芽の一つでないかと受け止めています。僕はこういうものが、これからのジャーナリズムを変えていくと見ています。

 大沢)被害者のPTSDの症状が悪化する要因の一つとして、二次被害に遭うことがあります。二次被害とは、被害を相談した相手から「よくあることだ」とか「ちゃんと断らなかったんじゃないか」など、被害者にも落ち度があるかのようなことを言われ、さらに傷つけられることをいいます。こうした二次被害によって、社会全体が被害者を追いつめているという現実を広く伝え、社会に認識してもらうことが大切だと思います。そうした発信を続けることで、性暴力被害に対する社会の意識を変えていけたらいいなと思っています。

 宮本)性暴力の問題は、当事者や、それに関心を寄せている人たちだけの問題ではありません。社会全体として、この問題を起こさない、起きたとしても二次加害を起こさない。そして、被害を受けた人が心穏やかに、あるいは仕事を継続するとか、トラウマを抱えたままでも生きていける社会になる。変わるべきは社会だと思うので、私は公共性をそんなふうに捉えています。

左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん=2026年7月22日、東京都内

左から熊田安伸さん、大沢真知子さん、池田鮎美さん、卜田素代香さん、宮本聖二さん=2026年7月22日、東京都内

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